第5話 みんなに共通の未来を見せるのがマネジャー

■営業スタイルは個性を映す鏡

天辺「おい張切! お前の残業は『ただ残ってるだけ』じゃねえのか! オレみたいに効率よく仕事しないと仕事してることにはならねえんだよ!」
張切「天辺さん、それはオレが仕事してないってことッスか!」

あららら、ミーティングルームから大声が。仕事でお互いの主張をぶつけ合うのはいいことなのですが……。
週の初めのミーティングからこれでは、実直マネジャーも大変そうですね。
さて、少し様子見に行きますか!

実直「とりあえず落ち着こう!」

天辺「実直マネジャー、オレの言ったことはどう思いますか? 8月度の売上、もう少しで1位だったの件も含めて言っているんですが」

実直「わかっているよ。それを含めて、少し僕にあずけてくれないか」

天辺「……はい」
実直「張切さんもOKかな?」

張切「わかりました。……自分は問題ないッスよ」

実直マネジャーとりあえず場を鎮めることはできたようですね……一安心。
では、一体何があったのでしょうか?
さっそく聞いてみましょう。

野口「何があったんですか?」
実直「天辺がですね、張切くんの残業にダメ出しをですね……」

---さかのぼってミーティング……

天辺「ちょっといいですか? 8月度の営業成績、もう少しでトップでしたね。ここでオレからの提案なんですが、業務のスリム化をして皆の効率を上げたいと思うんですが」

実直「はい。どこか業務改善できそうなところはある感じでしょうか」

天辺「まず、オレから見ていると無駄が多すぎますね。まぁ、身近なところでいうと張切、残業の意味を履き違えているよね」

張切「え! 僕ッスか! あははは、手厳しいですね?」
天辺「いやいや、笑うところじゃねえから」
張切「……」
天辺「自分で言うのもなんですが、皆さん御存知の通り、私天辺の営業成績はトップクラスです。そのオレから見て、張切の残業は見るに見かねるんですよ」
張切「ちょ、ちょっと、天辺さんどうしたんですか?」
実直「……とりあえず聞いてみようよ」

天辺「張切、自分の作業スケジュール考えたことあるか? 残業はな、最初から予定に組み込むもんじゃねんだぞ。残業で資料作りをしてるとか、ありえない」
張切「ありえないってどういうことっすか?」
実直「……ちょっとストップ! 天辺も少し言いす……」

天辺「資料作りとか通常業務の一環だろ! そんなもんで残業すんなってことだよ」
張切「どういう意味ッスか。はっきり言ってくださいよ」

実直「で、あの怒鳴り合い……という感じでした……」

あらあら、またまた大事ですね……。
2人とも個性的な営業マンですし、こういうこともあるかと思っていましたが……。

自分が一番でありたいと思う天辺さん、彼はその目標を達成すべく効率を重視した営業で結果をだしていますね。
張切さんは、粘り強さと親しみやすいキャラクターでお客様から愛される営業マンです。
論理的かつ合理的で無駄をカットし効率重視の営業スタイルの天辺さん、一見無駄に見えることでも地道にこなし粘り強い交渉できる張切さん。
彼ら2人、個性は違えども、優秀な営業マンであり、大きな伸びしろのある営業マンですよね。
ただ、スタイルが真逆な部分がネックになって、今回のようなことになった……という感じです。

仕事のやり方は人によってかわります。どれがベストかを判断するのは特性を理解した人間であると思います。しかし、無駄に見えるというのも重要なポイントでもあります。

もちろん、仕事のやり方の違う人達のそれぞれの長所を伸ばし、チームをうまく機能させるのもマネジャーの仕事です。
さて、実直マネジャー、ミーティングの時間ですよ!

■大人の言い合いは問題点の発露

野口「天辺さんの発言、どう思いますか?」
実直「いつもどおりですかね? 自分に合わせろ的な感じでしょうか」

野口「まだまだ野口のアドバイスが必要なようですね」

実直「え、どういうことですか……?」

 実直マネジャー、さっき(第4話参照)まで話していたことをすっかり忘れていますね。
天辺さんの行動を「自分に合わせろ」と受け取った実直マネジャー、ついさっきまで「天辺くんは『自分の成績』から『チームの成績』に目線が移っているのではないか」と言ってたのに!
今までの天辺さんは「自分だけが好成績であればいい」という感じで、上から目線で一言をいうことがあっても、「自分と同じようにすればいい」なんていうことはなかったんですよね。
いい意味での心境の変化ですね。

野口「天辺さんは『みんなが自分のようになればチームの売上があがる』と思っていますよ」

実直「あー! たしかにそうですね……僕は共感できないやり方ではありますけど」

野口「たしかにそうですね。万人に受け入れられる案ではありませんね」

実直「うーん……どうすれば……」

野口「それを考えてうまくいくようにするのがマネジャーですよ!」

 突き放すのではなく、ヒントを与えるのが野口の仕事です。
今回のポイントは、大人が言い合う=個人の蓄積した思いの発露ですね。天辺さんも大人ですので、ある一定の我慢はしたはずです。その上での発言と捉えるのが普通ですね。
天辺さんが高圧的に言ったとか、そういう部分でフィルタリングするのではなく、内容の本質をうまく消化してください。
その上で、何が良かったのか、悪かったのかを考えてマネジメントですよ!

実直「今回は天辺の指摘も受け入れつつ、言い方に問題があるのではないかという部分をきちんとマネジメントし、指摘された張切さんにもマネジメントする……のが僕の仕事ですか……」

野口「そうですよ」

実直「……」
野口「(やれやれ)ヒントをだしましょうか」

実直「はい!」

■2人の個性を考えたマネジメント

 実直マネジャーは野口よりもチームと関わっている時間が長いと思いますし、お昼のランチミーティングも実は続けている……ということは、2人にどういう接し方、話し方をすればいいかわかっているハズなんですけどね。
今回のヒントとしては、野口的天辺さん対策はズバリ! 認めてからの提案です!

実直「天辺、ちょっといいかな」
天辺「ん、ちょっと待ってくれ……うーん、OK」
実直「こないだは、ありがとう」

天辺「お、おう……なんだよ……」
実直「業務改善の良いきっかけになるとは思うしね。まぁ、言い方はどうかと思ったけど」

天辺「言い方ね……まぁ、オレは変わらないがな」

実直「天辺だけに先に言っておこうと思ってることがあるんだ」

天辺「なんだよ」

実直「僕は天辺の言ってることはわかる。言い方はともかく、だ。天辺がチームの成績を考えてくれるのはすごく嬉しいし、感謝もしてる」

天辺「だろ? 張切はちょっと教育だな」
実直「言いたいことはそこじゃないんだ。先に伝えたいことは、『僕が思うチームの目標』なんだよ」

天辺「……」
実直「僕は天辺だけには先に理解して欲しいんだ。このチーム、営業3課の目的は新規取引先の開拓No.1だ。これは話したと思うけど」

天辺「ああ、そうだな」
実直「僕は、この目的を達成できれば、結果として売上No.1もついてくると思ってる。天辺にも同じ思いを持って欲しいし、手伝って欲しいんだ

天辺「……」

実直「僕は天辺だから手伝ってほしいと思ってる。能力高いしね。張切さんの件はとりあえず僕がじっくり見るから、まずは僕と目標を共有することに集中して欲しいんだ」

天辺「……あーわかったよ。まぁ、わかってくれてるならそれでいいし」
実直「ありがとう! 頼りにしてるよ!」

 うまく行きましたね! 良い結果になってなによりです。
天辺さんはプライドが高く、実行力もあるタイプです。
そんな人には、一度承認してから伝えたいことを話して、最後に協力を求めることで満足感を感じてもらうのが大事です。
天辺さんは、ある一定値を超えた同士になってくれる可能性が上がりましたね!

 次は張切さん、彼はバイタリティ溢れるタイプですね。張切さんはストレートな話で問題ないですね。

実直「張切さん、ちょっと!」

張切「ハイ!」
実直「昨日のことなんだけど……」

張切「気にしてないッスよ。ああいう先輩は今までたくさんいましたし」
実直「そっか。それならいいんだけど、まぁ、天辺のいうことも一理ある。それもわかるよね」

張切「わかります。さすがにあの言い方だとカチンときただけッス」
実直「毎日遅くまで仕事しているとモチベーション保てないしね」

張切「ほんと、わかってるんスけどね……。今日から、早く帰れるように頑張ります」

実直「なんかあったらいつでも言ってね」

張切「ハイ! すぐに相談するッスよ!」

 実直マネジャーと張切さん、飲み会の一件(第2話)以降、かなり信頼関係が構築できているようですね。
スムーズに物事が進みました。
次は、これをいかにチームのチャンスに変えるかですね。

 今回の件、野口が思うに「単純な天辺さんから張切さんへのダメ出し」ではないと思っています。実直マネジャーは気づいているかどうかわかりませんが、同じことが1?2ヶ月に1回程度の頻度で起こりえる問題になりかねないぐらいの根深さがあります。

野口「実直マネジャー、どうでしたか?」
実直「どちらもうまくいきましたよ?! これで一安心です」

野口「一安心にはまだ早いですよ! ここが正念場!」
実直「え? どういう意味ですか?」

そう、ここからが本番です。
根本的な解決をして、チームを更なるステップアップのチャンスに変えます!

実直「率直に聞きますが、どうすればいいですか?」
野口「未来のビジョンを共有すること。それだけです」

チームの意識と目標、そして未来を共有する

 メンバーがベストなパフォーマンスを発揮するため、個別に接するというマネージメントの選択は大正解でした。
では、今回の一件をさらなるステップアップのチャンスと捉えると、実直マネジャーは何をすべきなのでしょうか?
それは、チームの意識と目標、未来を共有することです。

 同じゴールを見ているかどうか、これって実は大事ですよね。
こういう未来を実現したいというビジョンを共有していると、そのためには何をするのかということをチーム内で出し合えます。目的に向かうという枠内ではありますが、その枠内で自由な発想が生まれ、その発想が自発的な行動にもつながります。
現在や過去も大事なのですが、未来を見ることがポジティブな活動を後押しするのは間違いありません。

 さて、週末のミーティングですが、どうなったでしょうか……。

実直「今回のミーティングですが、少し僕から話があります」

実直「4月にも伝えましたが、僕はこの営業3課というチームの目標を『新規開拓No.1』にしたいと思っています。僕の新規開拓へのこだわりは、僕が初めて契約を結んだときに『実直さんのような真面目な営業マンと契約できて良かった』と出会いそのものに感謝されたことが根底にあります」
花咲「そうだったんですね……」
実直「まだ見ぬ出会いに応えるのが営業マンではないかとも思っています。でも、これは綺麗事にも聞こえると思います」

天辺「……ま、たしかにな」
実直「僕も営業マンです。売上が欲しい、課の売上を上げて課の存在を強くしたいと思ってます。存在感をアピールにするのに欠かせないのが新規開拓だと思っています」

花咲「ある意味、セオリーといえばセオリーですもんね」
音無「ふむふむ……」
実直「新規開拓でトップをとれば、当たり前だけど売上もついてくる。そして、新規開拓のスペシャリストチームになる。そうすれば、営業3課の存在意義は今とは比べ物にならないものになると思うんだ」

張切「了解ッス」

実直「ちなみに……最終目的は、営業3課を新規開拓の精鋭部門としてノウハウを蓄積し、いずれは部として立ち上げ、最終的には独立採算制の事業部を目指したい……と考えてます。つまり、ここにいるみんながマネジャーになって……ということです」

張切「ということは、給料も期待できるってことッスね!」
実直「うん……多分?」

張切「多分って、そこは言い切るとこッスよ!」
花咲「あははは!」

実直「一応、僕が思うこのチームの目標は伝わったと思います。目標を達成するために、いろんな方法があってもいいと僕は考えているので、何かあればミーティングで言って欲しい。そこから何か生まれるかもしれないしね」

 実直マネジャー、良い形でチームの方向性をみんなに伝えることができました。
実直マネジャーもどんどんマネジャーらしくなっていきますね。
大きな夢は共有出来ましたし、あとは野口と新規取引先アップの具体的な行動戦略の組み立てですね。一緒に頑張っていきましょう!

 そして、2週間後……。
9月も中旬に入り、プロ野球も優勝争いが熾烈になってきました。
営業3課では先週までキャンペーンを行っていた、スポーツ新聞の求人枠ご成約のお客様向けのチケットが10枚ほどあまり、スポーツ新聞社さんのご好意で譲っていただけることに。
しかも、人気のガイアンツ対タイタンズという伝統のカード!
これはお客様と仲良くなるきっかけになりそうですね。

実直「野球が好きなお客様を担当しているのは誰だっけ?」

張切「オレッス! お客様で熱狂的なタイタンズファンの社長さんがいるっす! 先週もクローザーの活躍で大盛り上がりッスよ!」

実直「音無さんがこないだ提案書を出していた翼菊製薬さんって、ヨクキクヒーラーズって草野球まで作っているぐらい野球好きのお客様じゃなかったっけ?」

音無「あ、あ、ハイ……! そ、そうです! ハイ!」
実直「それじゃ、2人に5枚ずつ渡すから、“お客様と仲良くなる”を目標に、うまく活用してよ」

野球が好きなお客様は多いですし、張切さんはお客様と一緒に観戦する気マンマンのようです。
あれ……あれは、音無くん、浮かない顔で実直マネジャーに相談していますね。

音無「実直さん……僕、野球というか、球技が苦手で、ま、まったくわからなくて……その、チケットいらないです……」

これは難しい問題ですね。
実直マネジャー、どうしましょう!?

(6話に続く……)