第11話 上席者のあり方

■いらぬお世話?

 やってきました営業3課。
実直マネジャーは……と、あ、ミーティング中ですか。
音無さん、張切さんはすでに営業に出ているんですね。
なんだかんだで、みんな忙しそうです。いいことですね。

天辺「チッ……また延期かよ……」

 うわ、天辺さんイライラしていますね。
過密スケジュールの中で、うまくクロージングできなかったのもあり、かなりイライラしていますね。

 天辺さんは勤続10年、売上に対する貪欲さ、目標への意識の強さもあり、営業3課だけでなく営業部門全体のエース候補です。
今回はそんな天辺さんのお話なのですが……。

花咲「天辺さん、ご依頼の資料、グラフに折れ線足しておきました」
天辺「あのさぁ……、そういうことしなくていいっつてんだろ……」

花咲「補足説明で触れていたので……すみません」
天辺「ああ。今度から勝手にしないでいいよ。オレの言うことを、きちんと、こなすことに、集中すればいいんだよ!」

花咲「……!」
天辺「それじゃ、行くか」

 花咲さん、明らかに怒っていますね。
そりゃ、あの態度だと怒って当然です。天辺さん、いつも通りの対応ですが、少し余裕がないようにも見えます。
うーん、実直マネジャーは安らぐ日々がないですね。

実直「野口先生、おはようございます」
野口「おはよう、実直マネジャー。最近、チームはどうですか?」
実直「売上は順調ですね。天辺の頑張りがすごいです」

野口「ほー。ちょっと納得しました」
実直「何かあったんですか?」

野口「天辺さん、かなりピリピリしていますよ。サポートすることを考えたほうがいいですね」
実直「わかりました。ちょっと注意して見てみます」

 この天辺さんの件は、花咲さんからも実直マネジャーにアプローチがあるでしょうし……と思ったら、さっそく花咲さんから相談を受けているようですね。

花咲「実直さん! ちょっと聞いてくださいよ!」
実直「どうしたの?」

花咲「天辺さんに余計なことするなって言われたんです!」
実直「どういうこと?」

花咲「うちの会社の求人サイトあるじゃないですか。サイト資料のページビューの変遷をグラフに加えたんですよ」

実直「うんうん」

花咲「資料の中にも月別の変遷に触れているから、必要だと思って!」

実直「それで『余計なことするな』って言われたんだね」

花咲「そうです。ちょっと悔しくて」
実直「客観的に見て、花咲さんが必要だと思ったのなら、きっと天辺さんの役に立つ時がくるだろうし」

花咲「はい」
実直「それまでは、心が疲労しない程度に天辺をサポートしてほしいかな。僕の方から天辺には話しておくしね」

花咲「は?い! ありがとうございます! ちょっと楽になりました」
実直「それはよかった。無理しないようにね」

花咲「は?い!」

 花咲さんは、感情面でのすり合わせですので問題なくクリアですね。

花咲さん感じるネガティブなポイント:善意で行ったことに対しての低評価

これを解決するのは、低評価に対しての解決です。
実直マネジャーの判断でOKです。
あとは天辺さんですね。

■上席者としてのマネージメント

 天辺さんに関しては、今後の天辺さんの社内的な立場を考慮した指導が必要です。

野口「実直マネジャー、どこがポイントかわかりますか?」
実直「みんなの気持ちを考える……うーん、これじゃ子供ですね」

野口「考えるべきは上席者としてのマネジメントです」
実直「マネジメントですか?」

 今回の天辺さんは、組織としての企業の原則から外れていることが指導すべき部分です。
企業とは何でしょうか?
そうですね、利益を追求する集団です。
その利益を追求するため、現状、効率がいいと考えられているのが、現在の会社組織と言えるでしょう。

 それを踏まえて、上席者としてのマネジメントとはなんでしょうか?

  1. 組織が目指す目標を、人・モノ・金を友好的に使い、達成に導くこと
    • 与えられた目標を、自分の責任が及ぶ範囲内で人材や予算などを最大限活用し、結果を出すことです。
      組織人として「自分のやれる範疇で全力を出す」という原則、これの権限拡大バージョンですね。
  2. 仕事を通じて部下の能力を引き上げること
    • 自分だから部下の能力が上がった……とまではいきませんが、部下が育っていくのはマネジャーとして、非常に嬉しいです。
      自分を超える人材に育てば本物ですよね。

野口「これが上席者のあるべきスタンスです」

実直「これはわかります。以前、野口先生の管理職研修時に聞きました」

野口「これを今後の天辺さんに当てはめて指導してください」
実直「行動の指針として、ですね」

野口「ポイントはわかりますよね」
実直「とりあえず、僕なりに考えたことを伝えてみようと思っています」

 実直マネジャー、決意の表情です。
これは期待できます……かね?

■常に次のステップを意識する

 次の日、やはり天辺さんはイライラしているようですね。

天辺「音無、わかるだろ? おまえのやってることはオレの邪魔になってるんだよ……」
音無「す、すみません」
実直「天辺……ちょっといいかな」

天辺「おう」

 実直マネジャー、ついに行きましたね!
花咲さんも心配そうに見ています。
野口は、まぁ、こっそりあとをついていくわけなんですが……。

実直「ミーティングルームだから、僕と天辺しかいない。最近、ちょっとおかしくない?」

天辺「そうか?」
実直「気づいていないかな。ま、いいや。ちょっと真面目な話するね」

天辺「……」

実直「まず、マネジャーとして、僕が思う『天辺のあるべき、目指すべき姿』は、先頭を走るリーダーなんだよね」

天辺「ああ……」
実直「で、今の天辺を見ていて思うのは、そこに全く近づいていない。なぜかわかるかな?」

天辺「まだ売上が足りない、新規顧客が足りないってところか? これ以上はもう無理だと思うが」
実直「最初に天辺に知ってもらっておきたいのは、おそらく天辺は僕よりも営業センスはあるし、おそらく実力も上だと思う」

天辺「……」
実直「だから、天辺は一人で走っているんだよ。先頭でもなく、仲間もいるでなく、たった一人で走り抜けてる」

 実直マネジャーの例えは、いい例えですね。
そうなんです。彼は個人でのプレーを重視するあまり、個の能力の限界を突破できないんですよね。
できるがゆえに、自分一人で片付けてしまうし、片付けることができてしまう……それが天辺さんです。
マネジメントという側面、組織の効率を考えると天辺さんが出張に出ていたら、病気になっていたらというリスクに対しての備えを用意しておく、つまり、人材を育てることこそが、マネジャーとしての評価に繋がります。

■個人の力だけでなく、チームの力をUPさせることが大事

実直「天辺はできてしまうから、一人になってしまう。一人でできることは限界があるし、適切なサポートがあれば、天辺の力は2倍にもなるんじゃないかな」

天辺「たしかに。わかってはいるんだけどな」
実直「わかっているなら、やるしかない」

天辺「自分でやったほうが早いんだよ……」
実直「わかる。すごくわかる。でも、それを乗り越えると強い営業体制、チームができるんだよ」

天辺「……わーかったよ! ちょっと我慢して、任せるところは任せてみるな」
実直「ちょっとずつでいいよ、最初はね」

天辺「ああ……、社内プレゼンでもわかったけど、なんだかんだでみんな成長してるしな」
実直「そうそう。信用してみてもいいし、間違ってるなら彼らにわかる言葉で伝えればいい」

天辺「ただ、1ヶ月だけ時間くれないか。決めてしまいたい案件があるんだ」
実直「わかった。メジャー物流株式会社さんだね」
天辺「……ああ。かなり大きい仕事だし……オレの力で決めたいんだ」

 うまくまとまったようですね。
これなら、天辺さんも成長できそうですし、言うことなしです。
さて、ここまで見届けたら十分です。
次は来週、また営業3課を見に来ることにしましょうか。

……翌週。

天辺「ああ、何度も修正させてわるいな。花咲さん、もうちょっとだけ、フォントを硬い感じで頼むよ……」
花咲「はい」
天辺「……オレはもう出るけど、15:00の帰社までにはオレのメールに頼む」
花咲「わかりました?!」

 まだ我慢しているのが丸わかりですが、なかなかいいかんじですね。
いつまで続くか……という雰囲気もしますが、OKです!
ん? 花咲さん、実直マネジャーに真剣な相談をしているようですね……、これは何かある……! どきどき!

花咲「実直さん……、あ、あの……」
実直「どうしたの? 風邪?」
花咲「違います! 実はちょっとひっかかることがあって」
実直「何かあった?」
花咲「表面的には変わりましたけど、天辺さん、ずっとイライラしているように思うんです」
実直「彼は大きな案件抱えているからね」
花咲「なんか、そういう感じではなく、葛藤しているというか。何かあるような気がするんですよね」

そういえば、実直マネジャーと話していた時も、妙に深刻そうでしたね。 どういうことなんでしょうか……。

(12話に続く……)